【CLくんブログ】初めてRSGTに参加する! ~アジャイル開発の今を知る~
新年あけましておめでとうございます。
2024年 弊社クリエーションラインは 新しい取組みをどんどん開始していきます。CLのスポークスマンを自負する 私ことCLくんもNew Year Resolutionとして今年は生成AIの力も借りて「どんどん発信していこう」、という思いに至っています。
今回はそのCLくんによる情報発信の第1弾という事で、2024年1月10‐12日の3日間にわたってハイブリッド開催されたRSGT2024について現地参加を通して感じたことや得られた学びをレポートしたいと思います。
※ちなみにCLくんは今回が初めてのRSGT参加です。
RSGTはRegional Scrum Gathering Tokyoの略で、アジャイルスクラムの初心者からエキスパート、ユーザー企業から開発企業、立場の異なる様々な人々が集まる学びの場です。2024年は65のセッション、27のスポンサー、742名が参加する大きなイベントです。
では早速、現地の様子からレポートしていきます。初日の朝9時、お茶の水Sora Cityの会場に到着すると、開始時間前にも関わらず多くの人で賑わっています。イベントの盛り上がりと活気を感じます。
プログラムの一つ目はスポンサー挨拶です。
今回クリエーションラインがスポンサーという事で、(ここはCLらしく畏まった挨拶ではなく)CLの有志メンバーで構成されるCL劇団がプロダクト開発の失敗ケースを寸劇で演じました。
「失敗ケースを防ぐために学び合おう! 」というメッセージが、体を張って表現されており面白かったのですが、私の前におられた海外ゲストの反応が気になってしまい、関係者として手に汗握る展開となりました。(言葉の壁を越えて伝わったと信じたい!)
弊社の寸劇を皮切りにHeidi Helfand氏によるKeynoteが始まりました。その後も続々と色々なセッションが組まれています。その中でも印象的だったセッションを紹介します。
■アジャイル現場の実践知
経験豊富なスクラムマスターとアジャイルコーチから、ステークホルダーと信頼関係を築くためのポイントについて共有されました。具体的な経験談をベースとなりリアルな内容で引き込まれます。
<参加セッション>
・ベロシティ Deep Dive (アトラクター Ryutaro YOSHIBA (Ryuzee)さん)
・アジャイルの価値を活かせる受託開発案件の取り方・始め方 (クラスメソッド Arata Fujimuraさん)
・スクラムとデッドライン、壊れゆくチームをつなぎとめるもの (カケハシ Ikuo Odanakaさん)
アジャイル関連の書籍を多数出版されているアトラクターのRyuzeeさんのベロシティに関するセッションは興味深い内容でした。「ベロシティは開発チームの参考指標として使うと効果がある一方で管理のために使うと、KPI達成が目的となってしまい本質的な価値を見失う。」というものです。続いて背景にも触れられ、「KPIが出てくる背景として、開発現場でのインクリメントがない、もしくは少ないと、するとチームへの信頼に疑問が生じる、その結果KPIとしてのVelocityで管理したくなる、KPIを設定するとそれに向けた活動に時間が使われ、本来の目的であるという負の連鎖が始まる。」
このような現場へのアドバイスとして「ステークホルダーやマネジメントにスプリントレビューに来てもらいインクリメントを見せよう」。それでも指標を求められたらプロダクト価値に紐づく指標を設定することや複数の視点から全体像をとらえる指標(SPACEフレームワークなど)を設定することが良いとアドバイスされました。
開発チームがマネジメントやステークホルダーから信頼を得るためのポイントについて、受託開発の現場の知見としてクラスメソッドのFujimuraさんより経験を新十則という切り口で発表がありました。受託開発の特徴を「新たなチームでの新規開発プロジェクト」と捉えると、ステークホルダーやマネジメントが変わった時の知見としても有用そうです。
お話のポイントは最初のMVPフェーズでは「関係構築のフェーズ」と割り切って計画駆動で取り組むとステークホルダーの信頼を得る上で効果的というものです。初対面で信頼を得るには、まずきっちり成果を出すことに重きを置こう、そのためには計画を守ることも大切、という顧客やステークホルダーの視点に立ったノウハウとしてとても納得感がありました。
次に、アジャイル開発プロジェクトでの中で悩ましい「デッドラインへの対応」についてカケハシ Odanakaさんから、ユーモアたっぷりな発表がありました。(とても面白いセッションなのですが巧みな話術をテキストで伝えられる自信がないので是非次回機会があれば参加してみて下さい)
内容としても開発プロジェクトに関係する人なら誰しも経験するスケジュール調整に関するものです。法令順守やマネジメントからのビジネス要求としてデッドラインが設定されるケースも良く起こること、としたうえで、
まずは要求元とダイレクトに会話してデッドラインの重要度と背景を確認することが大切(第3者を通していると意図しない誤解があるケースがある)。また、デッドラインの実現が難しい場合はトレードオフスライダーなどを利用してステークホルダーと対話の場を設けて説明責任を果たすことが重要。
トレードオフスライダーは「予算、スコープ、時間、品質」、という4つの要素を変動させてプロジェクト内外で意識を合わるための考え方です。例えば、リリーススケジュールを短くするのであればスコープを狭めたり、テスト工程の項目を減らして(品質担保を犠牲にする)でリリースをするといったものです。通常時のスライダーとデッドラインがある緊急時のものと二つを用意しておくことも会話をする上で効果的、という共有もありました。
セッション終了後、司会の方から30秒程度オーバーラインしたという司会の方も巻き込んだ落ちも用意されており会場が笑いに包まれました。(デッドラインに関するテーマにしたセッション)
■理論と経営からの学び
開発チームの実践知に加えて、アジャイル開発の効果を高める要素についての研究理論からの発表や経営の視点から開発チームの提供価値を高めるためのサポートの要点についての発表もありました。
<参加セッション>
・A Theory of Scrum Team Effectiveness 〜『ゾンビスクラムサバイバルガイド』の裏側にある科学〜 (Takeo Imai (Bonotake)さん)
・エンジニア組織の経営論 〜エモい開発と売上数字は両立するか〜 (ウルシステム Shigeru Urushibaraさん)
まず、Bonotakeさんから「スクラムチームの効果を高める5つのファクター」の紹介がされました。内容は「チームの効果」にはステークホルダーの満足度とチームの士気という要素にがあり、その2つをを高める要素として、「チームの自立性、継続的改善、ステークホルダーへの関心、反応性、マネジメントの支援」という5つの要素が相互に関連している。
自立性のあるチームは継続的に改善サイクルを回し、ステークホルダーへの関心を持ってコミュニケーションを行う、その結果として士気が高くアウトプット品質も高まる、というのは感覚的にもすんなり腹落ちします。「チームがアウトカムの品質に対する期待にどの程度応えているか、どのように今のチームで提供価値を高めていくか」、について深堀りする上で参考になる枠組みという印象です。
ウルシステムのUrushibaraさんからはビジネス効果を最大化するためにも、マネジメントはエンジニアが十分に力を発揮できる環境を作ることが重要という経営サイドからのサポートの重要性についてのメッセージがありました。
パフォーマンスが高いエンジニアとは「エモい」=没頭できる、勝手に学習していく、と説明した上で、経営の役割はエンジニアの内発的動機を邪魔しない環境を作ることだと断言。エンジニアが成長する環境を作る、技術力の向上する→顧客への提供価値が高まるサイクルを回してウルシステムは創業から成長してきている、という実績の裏付けがあり説得力があります。
今回参加できなかったセッションでも大規模な開発プロジェクトでのLeSSやScrum@Scaleの現場での実践知なども紹介されていました。
アジャイル開発はどちらかと言うと小規模なWebサイトを開発するプロジェクトで利用されている手法で、大規模な基幹システムや外部システムと連携でスケジュールが設定されるようなプロジェクトではウォーターフォール開発手法が向ている、といった認識を持っている方も多いかもしれません。顧客価値に重きを置いたプラクティスの考え方や取組みは大規模なシステム開発においても貢献する要素が多く、アジャイルプラクティスを取り入れるエンタープライズの開発プロジェクトの現場も増えるのではと考えられます。
アジャイル開発の学び中の身であるCL君がRSGTを通しての感想を纏めると、
・アジャイル開発現場は其々異なり全ての現場課題に機能するプラクティスがあるわけではない
・でも色々な現場で実践知が開発されて共有されており、コンテキストを理解して取込むことが重要!
・さらにプロジェクトの事例や理論を共有して学んでいける場もある(RSGTなどのスクラムイベント)
という事になりそうです。
開発現場は其々異なります。自社プロダクト開発や受託開発の立場の違い、メンバー数や開発規模などチームの特性の違い、ドメイン分野など其々特徴と制約の有無の違い、によって効果的なプラクティスや解決策も異なってきます。特定のアジャイルプラクティスを盲目的に適用すると逆効果にもなりうる。プラクティスが機能するコンテキストを理解して自分のプロジェクトで適用するかの判断を行うことが重要、という事を学びました。
アジャイル開発の現場の裾野が広がるにつれて効果的なプラクティスや理論も日々生み出されています。新たな価値を生み出していくために、アジャイル開発プラクティスを学び、現場で実践し、コミュニティで惜しみなくノウハウの共有し、そして皆で学びを深めていく、というサイクルを支えるスクラムイベントの意義を感じるとともに、RSGT参加者の学びへの思いと熱気を感じた3日間となりました。
最後に、クリエーションラインでも大規模なシステムのリファクタリングをアジャイル開発で進める、というプロジェクトも進行しています。ご支援している様々なプロジェクトで培った知見は公開事例として可能な限りどんどん発信していきたいと思います!