【後編】CLMeetUp さくらインターネット田中さんと語る「僕らが作る未来」Vol.2
この記事は、Creationline Meetup(CLMeetup)「僕らが作る未来」Vol.2 の内容を書き起こしたものです
僕らが作る未来シリーズとは
CLMeetUpは「喜びあるエンジニアライフを送るために、登壇者と参加者がともに学ぶ場を作りたい」そんな想いから立ち上がったMeetupです。
経営者の頭の中身を理解し働くための「社長が社長に聞く」僕らが作る未来シリーズは、経営者が経営判断を迫られたときにどんなことを意識しているのか、会社の方向性/将来に向けて普段どんなことを考えているのかなどをお聞きしたいという、クリエーションラインの社長 安田の思いが形になった企画です。
ゲスト:さくらインターネット代表取締役社長 田中邦裕 さん
田中 邦裕(Kunihiro Tanaka)
1996年舞鶴高専在学中にさくらインターネットを創業、2005年マザーズ上場、2015年東証一部(当時)へ。元々はエンジニアでありながらも、自らの起業経験などを生かし、多数のスタートアップ企業のメンターやエンジェル出資を行うほか、IPA未踏プロジェクトマネジャーとして学生エンジニアの育成にも携わる。
代表取締役社長 / 最高経営責任者
また『テクノロジー×デザインで人間の未来を変える学校』をコンセプトとする『神山まるごと高専』の理事として、高専の新設にも関わっている。現在は沖縄に移住し、自ら率先して新しい働き方を実践している。
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仲間を信じ、経営者になる
田中さん:自分はリベラルです。右でも左でもなく中道、意志のある中道です。別な言い方をすると多極的でいいと思っている。一局に集中するということではなくて真ん中の考え方が大事という価値観です。
そんな中で多様性はとても重要だと思っています。男性女性もそうだし、年齢も上の人も下の人も入れる、あと経験のある人を取りたい。
伊勢さん(2016年に取締役に就任)に関していうと伊勢さんはだいぶラディカルで、江草さん(2014年入社、2016年、25歳のときに執行役員に就任)もそうですが求心的、確信的で変化を楽しむ人間なので、やっぱり経営者をそういう人にしないと会社は変わらないなというのがありました。仲間をもっと多様にして変化を楽しめる会社にしようというのはありました。
誰と一緒にやっていくかについては相談します。基本的には「この人を経営者にしよう」という最初のアイデアが他の人から出てくるケースはほぼないです。強いて言えばさくらの大株主の双日さん(取締役の指名権を持っている)ですが、双日さんも事前に相談してきますし、お互い社内の他の役員や株主にも根回しします。それから、私が反対した人が役員になることはないですね。
今、組織をどう変えていくかの設計を伊勢さんにお願いしているのですが、創業者として大事にしたいことはお話しますが、全て私が決めてやるという感じではないですね。議論しながらやらないと多様な意見は入っていかないですが、私の意見だけでやって、その情報量だけでうまくいくかどうかもわからない。ですから、多様な方が面倒だけれど成長性には寄与するだろうなというのが私の感想ですね。そして、その中でもスピード感を保つために頑張ることは必要だと思います。
みんなで合議で1年がかりのものが、1人の決断なら一瞬でできるけれども、それが合議でやって1カ月であれば1人で決断するのとそう変わらない効果はあると思います。時間がかかると言っても程度の問題で、何年もかかって全然変わらないというようなことは許してはいけないと思います。
ここは決めなくてはいけないというときには、「これはこうした方がいいから」という話をします。
我々の会社でもビジネスを変えないと働き方改革も業容改革もできないと思っています。
具体的にいうと、昔からやってきた専用サーバーは全部終了していて、今やっている専用サーバーはだいぶクラウドに近いマネジメントとオペレーションができるようになっているんですが、古いサービスの方が減価償却が終わっているから儲かるので、そのビジネスは続けておくべきだったんですよね。働き方改革が全然進まない古いサーバーが残っている現場が山ほどあって、交換部品も多いですし、でもそういうのを変えるためにはビジネスを変えないといけないという話があって、売上がいきなり減るのものまずいので、社内で2〜3年はかけました。(参考:New さくらのレンタルサーバ)
去年(2022年)創業以来初めて減収になりましたが、それを乗り越えていかないと根本的な収益改善と働き方の見直しができないからというので頑張りました。今は収益性はだいぶ改善しましたが、ずっと増収だったのに24年目から25年目にして初めての減収ですから、考えるものもありましたけれど、でもそのあとの方が長いのでね。
ビジネスや組織の変更は順調にいきましたか?
順調ではないですね。人に配置転換を促すとか新しい機会を持たせるって、好きな人ならいいけれどやりたくない人にはやはりストレスですよね。(配置転換した)仕事に関しては現場のサーバー交換をしていた方はジョブチェンジをしたほうがいいという会社の判断もありました。自動化が進むとその人の給料を下げなくてはいけなくなってしまうので。
さくらでも大体年間数パーセントの人は給料が下がります。年功序列ではないので上がる人はガツンと上がるけれども、調整給の人で3年以内に下がりますとというので下がった人もいます。社員の給料が下がって嬉しい社長もいないでしょうから、さくらはメンバーシップ雇用に近くて、ジョブ型雇用ではないので、下がらなくて済むように機会を設けることを考えます。
日本はちょっと働いて5~600万もらえる職があまりにも少ないと思います。現場に対してコミットしているけれどもそこまでスキルが必要ない仕事だとだいたいアウトソースされて、派遣で2~300万の年収で働くみたいな国になっているから、二重におかしいと思っています。普通に生活できない国ですし。上に行こうとして貢献する人の給与も同じで、質の悪い共産主義みたいになってしまう(と思う)。社会の変化が激しいとやっぱり多様性と、長くその会社にコミットして働けるように仕事を生み出すということが求められていると思います。
ある調査で、日本のGDPは2100年にインドの次で4番とでています。それは出生率で間違っているだろうと総スカンをくらっていますが、それでも2050年にまだ7位とか8位ですから、これだけ人口が減るのにGDPを維持するというのは素晴らしいことです。しかし、1人当たりのGDPは上がらない。貧困率がG8で下から2番目というのが信じられないです。けれども、そういう国なんですね。
私は、国民は豊かになる権利があると思うんです。憲法にも書いてありますしね。IT産業はそういうのを生み出せる産業かなと思っていて、本当に貢献する人は1000万を目指せるような会社にしたい。そこそこ貢献している場合、4~500万、できれば600万前半くらいまで行けるような国になっていけばいいのになと思って経営しています。
次の経営を担う人、市場と文化
田中さん:同年代でも若い人でも(次の経営を担う人のイメージ)どちらでもいいかなと思うんですけれども、やはり話をしていて「さくららしい人」かなと思います。「さくららしい人」の言語化は容易ではないんですが、社長が考えている以上に「さくらならそういう考え方だよね」という風なことを言ってくる人がたまにいて、例えば何かの制度をこうしたほうがいいんじゃないかとやっているときに「それもいいですが、自分はやっぱりこうだと思うんです」と言われて「あー確かにそうだよなぁ」と感じたときに、こういう人に任せればそんなにブレること(「さくららしさ」が)はないんだろうなと思いますね。
文化が会社を上手くすると思います。市場と文化ですね。市場選びは重要で、僕が伸びてきたのって市場選びがなんとなくうまかったというくらいの話で、多くの会社は市場選びに失敗するんですよね。既存の延長線上でやろうかみたいな、先ほどの業容転換もそうですが、儲かるところに10年単位で業容を持っていくことも重要ですが、それに応じた文化があるし、その文化だから選べる市場があるので、市場と文化を常にマッチさせながら文化を大切に、市場を大切にやっていくと継続的に成長できますよね。
インターネットも最近多極化していますが、インターネットが生み出した起業家や豊さは1つの社会基盤だと思います。そういうのを続けてやりたいことをできるように変える人をいかに増やすかということが基本なんでしょうけれども、社名を変えちゃいけないということもないので、別な会社になって今とは違うことをしているということもあるかもしれないですね。
注目している最新技術
田中さん:強いて言うとやっぱりクラウドテクノロジーじゃないでしょうか。特にグローバルのクラウドベンダーはネットワークの仮想化やクラウド基盤のレジデンスに対して大きな投資をしていますし、NFTも本来はコンピュータ分散させればいいのに結局クラウド上で動いていますのでね。
僕はブロックチェーンって台帳分散したほうがいいと思っています。それからデータセンターは悪だと思うんですよね。インターネットにとってもダメで、分散こそ神だと思っています。ただ、インターネットの法律性のためにどうしてもセントライズになる、Web3は素晴らしいなと思いながらも、結局基盤が多様でなければいけない。AWSなどの外資のクラウドだけでいいわけではないというのが私の信条で、多様性の選択余地をなんとかしたい。例えば、インテルのCPUだけじゃなく、AMDがあることによってインテルは緊張感を持つわけです。
ちゃんとした技術者を雇って技術投資をしても、周りから国産じゃ無理と言われ続けたとしても、やっぱりしっかりエンジニアを育ててインフラ投資をしていって、AMDがたまにインテルを抜く、たまに脅かすことがあるように、少なくとも5~6年でそれくらいのことができるような会社になっていたいなと思います。すでにそういうエンジニアは揃っているので、「国産のクラウドじゃダメだ」という人もいるけれども、実はそんなことないよというのを証明できて、業績にも働き方にもそれが証明されていて、成果を出していればいいかなと思います。NFTもWeb3技術も面白いけれど、10年20年続くテクノロジーをいかに作っていくかということにとても興味があります。
会社の成長はなんのため?最優先事項は?
田中さん:僕が起業家のメンタリングをするときには、一番最初に「あたなは会社を成長させたいですか、成長させたくないですか」と聞きます。何のためにというのはそれぞれの会社であっていいんだけれども、僕の場合の最優先事項は仕事を作るということだと言っています。
会社って業務があってみんなが集められて働かされるというよりも、働く場所を用意することだと思います。自分たちでインフラ作りたいとかクラウド基盤をやりたいとか、ネットワークが本当に好きですという新卒が来るたびに入社できて良かったと言ってくれると、こちらもこの仕事をやっていて良かったと思う。本当にいい仕事をつくることは起業人として重要なミッションだなと最近思います。
そんな中であえて私が成長させたいのは、規模がないとできないチャレンジです。いろんな社員がいる中で若い人を雇い続けるためには会社が成長しないといけないので、高度経済成長の経営みたいなことをやっています。正社員率が99%以上ですし、ほとんどの人が長く働いてくれる。年功序列の制度はないけれど終身雇用みたいな。社員が増え続けて売り上げが増え続けないとできない経営でもあるので、社員が安定するためには成長してくれということに他ならないので、安心して働ける職場を維持するために、さくらの経営の仕方だと会社が成長しないと持たないです。
自分たちの職場を安心できる場として守るためには成長しないと、IT業界では無理です。あとは、だんだん歳をとってスキルを上げるのが大変になってくるから、それでもずっとスキルを上げろと言われ続けて、若い人が入ってきてその人たちにちゃんと高い給料をあげて、40代50代になると少しメンター的に過ごせるぐらいの、若い人が給料をもらえてチャレンジできて、そのおかげである程度歳をとっても食っていけるっていう国、国自体もそうなればいいんですよね。
若い人はもっとお金を持って、働いて納税するから年寄に年金が入ってくるようにすればいいのに、なぜか若者から搾取するのに若者に渡さないというのが日本を停滞させちゃうんで、会社もそうかなーなんて思いますね。
質疑応答
質問1
Web3の分散という思想は、国産技術にとって世界とつながる大きいチャンスがありそうだなと感じています。ただ、現状だと法整備がおいついていないなど課題も山積している認識ですが、エンジニアはどのようにアプローチして壁を壊していくとよいでしょうか。
田中さん:Web3の法律問題は根が深いと思っています。辞任された柳沢さんがスタートアップ大臣だった時の勉強会を主催していたのですが、その時にもこの話が出て、政治家からしてみれば国民的議論になっていないということでした。国としてWeb3が大事で、その人材を失ってしまう可能性があるということを、もっと我々が声を大にしていればいいし、エンジニアの人たちが大挙して「儲けたらシンガポールに引っ越す」みたいなことになったら、さすがに一端を担うんじゃないかなと思います。
質問2
メンターをたくさんされているとのことですが、コミュニティの若手や新規参入者について、何を意識され、何に価値を置いてメンタリングされていますか?
田中さん:その人が何をやりたいかということだと思います。内発的動機を深堀して聞きます。「なんでこれをやっているの?」という話です。それを聞いて話をしてずれていないかを重視しています。それから、成長したいのかしたくないのかということを最初に聞いて、成長しないならどうやってそれを維持できるのかということをメンタリングします。成長したいならグラフを書いてもらって、例えば「5年後に10億」と書いていたら、なぜそれを3年後にできないのか、何か制約があるのかということを詰めて、できるだけグロースの高さを上げるとか期間を短くすることに価値観を置きます。
スタートアップはグロース命ですから、グロースに価値観を置くし、その人が何を本当にやりたいかというのを聞いて、それごとにカスタマイズしながらメンタリングします。
質問3
個人・会社として、スタートアップに投資したかったのに投資できなかったことはありますか?投資できなかった理由は何ですか?
田中さん:それでいうとメルカリですね。うちの役員(社外取締役)はメルカリに出資しているんですけれども、僕には話が来なかった。あの時はヤフオクに勝てるのかなと思ってしまって、そのうちの役員が30万出した、それで0.5%くらい持っていて、メルカリは一時期1兆円だったので、0.5だと50億ですからね。結局そうなる前に売っていたから50億にはならなかったようなのですが、それでも20〜30億になったと言っていました。30万が30億ってびっくりですよね。
質問4
個人・会社それぞれで、3年後に実現したい目標は何ですか?
田中さん:3年後は時価総額1000億、20%の成長を取り戻したいです。20%成長が毎年毎年継続的に売上されている会社になりたい、それに合わせて社員もしっかり確保していきたくて、質を落とさずに本当にさくらにフィットしている人が年間15%くらい入ってきてくれると嬉しいです。
個人的には、モビリティを変えようと思っています。あと沖縄を変えようと思っています。豊かな沖縄、豊かな日本みたいなことを実現したい。日本はお金があってGDPもあるんだからいい国になる要素はある。材料はあるけれど不味い飯しか食えていない政治なんですよね。だからこれは変えられるなと思います。料理人の腕があがったらいいので。
質問5
田中さんが政治家になるということは考えていますか?
(僕が)政治家になることはないです。構造を見てきて辟易としましたけれども、みんなの票をもらわないといけないですから。票を取るためにたくさんの人の多数決を勝ち抜かないといけないというのは、自分のやりたいことが出来なくなるので、僕は自分の応援したい政治家だけを応援して、国が豊かになるといいなと思います。
「邦裕」という僕の名前は「国が裕福になること」というので父親がつけたらしいのですが、沖縄とか近くの人、だからまずは会社の人たちが豊かになって、沖縄が豊かになって、日本が豊かになるために、そういうことをやって政治家を応援しようと考えてます。僕は政治家になることはないので(不得意なので)、起業家としてちゃんとお金を稼いで雇用を生み出していける存在がいいんだろうなと思っています。
個人でやりたいことは、鉄道会社を変えたいので買いたい。鉄道会社ってこれからどんどん潰れていきます。すでに小樽から長万部間の在来線は新幹線開通の8年後くらいに廃線が決まりました。あそこだったらただで買えると思うんですよね。鉄道会社は負の遺産が多いけれども安全にさえ配慮すればいくらでもチャレンジできる業界だと思います。
質問6
会社の目標は、時価総額1000億と人材ポートフォリオということでしたが、その時のさくらの事業構造はどんなイメージですか?成長戦略における事業戦略も聞ける範囲で聞きたいです。
田中さん:5割くらいはクラウドインフラだと思います。最近の若い社員がPaaS、SaaSで「自分がデプロイしたい環境がさくらのサービスにない」と話しているのを聞きました。昔は自社のサービスを社員が使っていたのに、今は社員が使いたいサービスがないというところを変えたいです。また、さくらはスタートアップに出資しているけれどもさくらの中に紹介できるサービスがあまりないというところも変えていきたいです。
PaaS、SaaSなど便利に使える開発インフラなどで1割2割売り上げたいと思います。それから、Tellusや衛星データベースなどのデータセットへの投資もしているので、政府のやっていた事業のカーブアウトのようなものを含めて、公的セクターに近いところでマネタイズしていくのもひとつあります。それから出資したスタートアップで100億、200億という会社が生まれてきている状態かなと思います。