お客様情報
■ 企業概要
2000年10月設立後、インターネット等を利用した、事業者向け工場・工事用、自動車整備用等の間接資材の通信販売ビジネスを展開。「一物一価主義(ワンプライス・ポリシー)」「豊富な品揃え/ワンストップショップ・当日出荷拡大」などの提供価値を打ち出す。また、お客さまの利便性向上の鍵として物流拠点への継続的な大規模投資を継続的に実施しており、2022年11月に発表した*1茨城県の水戸市に約400億円を投資する新たな物流センターは、2026年3月に完成の予定となっている。
■ 本社所在地:
〒660-0876兵庫県尼崎市竹谷町2-183リベル3F
■ 設立:
2000年10月
■ 資本金:
20億3,900万円(2022年12月31日)
■ 社員数:
正社員:1,275名、アルバイト・派遣社員:1,984名(2022年12月31日)
取材当時の情報です
※写真:左から田村氏、普川氏
- 導入ハイライト
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- サプライチェーン高度化戦略に不可欠な業務全体の一貫した俯瞰が急務に
- VSMが潜在的課題の可視化、関係者の共通認識の醸成、次のアクションの創出に貢献
- クリエーションラインのファシリテーションも高く評価
急激な成長を遂げるビジネスに対応するための「サプライチェーン高度化戦略」の一環であるシステム改修に際し、同社ではクリエーションラインが提供するVSMワークショップを実践し、部門を超えた共通認識の醸成や課題の可視化、さらに次のアクションの創出などの導入効果をあげた。
システム改修に向け業務/システムチーム間で共通認識を作る
購入頻度が不定期で購入量も限られる一方、その種類は膨大で多数のサプライヤーとのやり取りが必要になる間接資材*2。購入までにかかる時間や手間によってユーザーを悩ませてきたこの間接資材を、検索機能の充実したECプラットフォームによって容易かつ迅速にユーザーに届けられるようにしたのがMonotaROのサービスだ。この狙いがユーザーのニーズにマッチしたことで同社のビジネスは急激に拡大し、直近の3年半で売り上げが倍増。2022年度(連結)には約2,260 億円に達している*1。このように急成長を遂げるビジネスの根幹となるサプライチェーンシステムは、同社にとって業務遂行の要とも言える重要な存在だが、増大する業務要件に対応する形で的確かつ迅速に改修を行うことが次第に困難になってきていた。
*1 : 2022年11月の発表内容に基づく
*2 : 製品原材料以外の全てを指し、経費の対象となる工具や保安資材、消耗品、燃料などが対象となる
執行役
IT、ECシステムエンジニアリング管掌 ECシステムエンジニアリング部門長
普川 泰如 氏
同社執行役 IT、ECシステムエンジニアリング管掌 ECシステムエンジニアリング部門長の普川泰如(ふかわ たいすけ)氏は「商品の増加や当日出荷などへの対応に向け早急な改修が必要でした。一方で業務、システムも成長していくにつれて、もともとの設計コンセプトでは対応できないことが増えてきました。現状や将来を見越して、業務とシステムが“どうあるべきか”、“サプライチェーンをどのように設計すべきか”など、システムチーム側だけでは判断できない部分があるため、業務チームとシステムチームが同じ目線で考えられること、つまり共通認識が不可欠と考えました。共に業務プロセスを俯瞰し、問題を理解した上で全体最適の視点から対応を進める必要性を感じていたのです」と話す。
サプライチェーン・マネジメント部門 常務執行役 /サプライチェーンマネジメント部門長
田村 咲耶 氏
サプライチェーン全体を把握するためにVSMを採用
VSM(Value Stream Mapping)はトヨタ生産方式の「モノと情報の流れ図」を元に開発された手法で、ソフトウェア開発工程における価値の流れを“見える化”することができる。「MonotaROのもつ競争優位性の一つはサプライチェーンから来ているので、そのバリューストリームを把握することが重要と考えました」(普川氏)。
当初、自社でVSMに取り組むことも考えた普川氏だが「経験ある外部の会社に依頼した方がより効果的」と考え、候補を探した。調査したところクリエーションライン株式会社が唯一ファシリテーションの実績があり、アジャイル系カンファレンスで名前を知っていたので、 VSMのトレーニングサービスを採用の候補とし、2022年6月、Webフォーム経由で問い合わせを行った。
その後、実際に対面で開催された両社のミーティングでは、MonotaRO側からは業務に関する説明が、またクリエーションライン側からVSMの説明が行われた。その上で「VSMでどこまでできるか、試しにやってみよう」ということになった。
同社 サプライチェーン・マネジメント部門 常務執行役/サプライチェーンマネジメント部門長の田村咲耶(たむら さくや)氏は「今回の話を聞いた時、まずはありがたいと思いました。弊社は業務運営を内製化しており、常時、手元の小さな改善は積極的に行っていますが、組織が大きくなる中で根本的な改善は難しかったので、サプライチェーン全体をより良くするための一つのきっかけになればと感じました」と話す。
この背景には、元々1ヶ所だった自社倉庫が2017年、会社の成長に伴い複数になったことで問題が複雑になったという経緯がある。1ヶ所の倉庫を前提に構築されていた以前のシステムは、倉庫間輸送についても近いロケーションを対象にしていたため、茨城県笠間市と兵庫県尼崎市の間での輸送に充分に対応できておらず、業務側のマニュアル作業に多く依存していたという状況だった。このためシステム側からもたらされたVSM実施の話は、田村氏にとってまさに「ありがたい」ものと感じられたのだ。
しかし一方で、前職のメーカーにおいて既にVSMに触れていた田村氏は「システムだけを対象にVSMを実施するというイメージは持ってなかったので、これが正しいアプローチであるかは分かりませんでした。しかしシステム側からこの話が来たことで、業務側は“これで状況が変わりそう!”という期待がもてたのです」と話す。
こうしてVSMの実施を決定したMonotaROは、2022年9月、第1回目となるVSMワークションに臨んだ。
業務部門、システム部門を横断して、課題や改善案について話し合う
2日間にわたって実施されたワークショップは、システム側からはサプライチェーンに関わる開発者やアーキテクチャーの担当者が、また業務側からはサプライチェーンと倉庫の担当者、WMS(倉庫管理システム)や基幹システムを使用する担当者が、そしてクリエーションラインからはファシリテータとして3名が参加する形で進められた。
朝一番で実施されたアイスブレイク「お絵かきしりとり」でリラックスした雰囲気になった後、全体の概要説明、VSMの記述に関する説明が行われた。その後、模造紙に付箋を貼り付けながら参加者全員でサプライチェーンに関わる業務フローを組み立て、本題である現状分析やディスカッションが繰り広げられた(今回のVSMワークショップでは、実際にMonotoROが販売している商品であるペーパータオルを題材にして話が進められた)。
VSMワークショップの全参加者が一堂に会してディスカッションを繰り広げる
普川氏は「自分達では想像もつかなかったような問題が明らかになりました」と話す。たとえばデータ上は倉庫に資材があるように見えるが、実際には外部にあるため、自社倉庫に搬送するだけでタイムロスが発生しているという件や、海外からのプライベートブランドの入荷にあたり、船による輸送だから時間がかかっていると考えていたものが、実際には国内の倉庫の入荷作業にボトルネックがあり、1週間という期間がそこに費やされていた件などがあった。「システムを開発しているだけでは全く気付かなかった問題が顕在化されたことで、それらを在庫管理という観点でとき直すことが必要だと感じました」(普川氏)。
一方で田村氏は、業務側の参加者からのフィードバックとして「倉庫間輸送のリードタイムが思ったよりも長かった」、「どういうプロセスなのかという点が思った以上に知られていなかった」、「システムの動きについて話が聞けると思っていたが、業務プロセスの理解が完全ではなかったので、そこまで至らなかった」、「特定のメンバーに知識が偏っている」などといった内容を挙げ、顕在化された課題を明らかにした。
クリエーションラインのファシリテータは、議論が膠着した際に進行させるためのガイドや、参加者の一部が抱えている疑問を解消できる、「これはどういう意味なのですか?」といった問いを出すことで、全体の目線を同じレベルに保てるよう努めた。
導入効果:課題の可視化だけでは終わらない具体的なアクションプランの作成
普川氏の狙いであった部門を跨いだ業務の共通認識による課題の可視化という点について、VSMはまさに期待通りの効果を発揮した。「元々やりたかった “業務/システムチームが同じ目線で部署を超えて1つのチームとなり、課題を可視化して対処すること” ができるようになったと実感しています」(普川氏)。VSMワークショップを通じて業務チーム、システムチームがそれぞれ把握していなかった相手側の実情を共有し理解するようになったことで、サプライチェーン全体を俯瞰した対応が可能となった。
VSMワークショップのサービスに加え、クリエーションラインのファシリテーションについても高く評価された。普川氏は「ファシリテーションが重要であることを実感しました。これによってワークショップの成果が大きく変わりますね」と強調する。田村氏は受講者からのフィードバックを引用し「ファシリテータは楽しい雰囲気を意識的に作り出すことができ、また第三者の立場であることによって、今まで聞けなかった言葉の定義も聞きやすくなったりと同じベクトルでの議論ができました」というメリットについて言及した。
さらに田村氏は「ワークショップの最後に『3つだけで良いので次のアクションを考えてください』という課題が与えられ、全員でアクションを考えました。これを受ける形で、その後参加者の1人がWMSの構造を説明する資料を作成したところ、皆が参考にできる非常に良いものとなりました。このような具体的なアクションが創出されたことも大きなメリットです」と強調する。このアクションプランはMonotaROが会社レベルで設定する「5つの重要課題」にも選ばれており、VSMワークショップがきっかけで創出された具体的かつ重要な成果となった。
こうして第1回目のVSMワークショップを実践し、その有効性(特にクリエーションラインのファシリテーション能力)を実感したMonotaROでは、2022年12月、経営層も参画した業務分析を中心としたワークショップを開催している。
今後の展望:サプライチェーン高度化戦略の取組みにもVSMの成果を活用
VSMによって業務/システムチームの共通認識の醸成、潜在的な課題の可視化、具体的なアクションの創出といった導入効果を享受したMonotaROは、現在、サプライチェーン高度化戦略の取組みに邁進している。
今後の展望について田村氏は「弊社は小売りでかつインターネットビジネスなので、お届け品質がサービス品質の源泉だと考えています。つまり出荷遅れを発生させない、そして欠品率という指標にも注意し、さらに当日出荷できる商品を増やすという対応も重要です」と話す。普川氏は「弊社のビジネスは今後も長期にわたって成長し続け、複雑化していくと思われますが、そこで発生する業務の改善内容をいかにシステム上に反映していくかが問われています。そしてその具現化にあたってはマクロサービス化というアプローチが重要になるのです」と話す。
MonotaROにおけるサプライチェーン高度化の取り組みは、まさに今進行中となっている。VSMがもたらした各種メリットは、同社のシステム改修工程においても十分発揮され、同社が最も重視する顧客の利便性向上というゴールに寄与するだろう。
取材日:2023年2月15日