お客様情報
■ 企業概要
パソコン・OA機器・カメラ・デジタルカメラ、オーディオ・ビデオ機器、家電、時計、携帯電話、ゲーム機およびソフト、CD/DVDソフト、書籍/電子書籍、スポーツ/アウトドア用品、日用品などの販売。最先端の情報システム活用により、700万アイテムを越える豊富な品揃えを実現し、実店舗と通販サイト両方のメリットを活かした利便性の高い顧客サービスを展開している。
■ 本社所在地:
東京都新宿区新宿5-3-1
■ 設立:
1960年4月
売上高:
7,046億円(※2020年3月現在)
従業員数:
5000名(※2019年4月現在)
取材当時の情報です
プロジェクトチーム(ヨドバシカメラ様、クリエーションライン株式会社、協力会社様)
ヨドバシカメラ:西島様、守屋様、戸田様、笠野様、永村様
- 導入ハイライト
-
- オープンソースの活用でデータ量の激増に対応できるシステムを実現
- アジャイル開発手法の導入により迅速かつ高品質なシステム開発を実践
- プロジェクトを通じてアジャイル開発に習熟した社内チームを育成
導入の背景:オープンソースを活用した拡張性に優れた通販サイトの実現
家電量販店業界において、いち早く情報システムを導入して成功を収めてきたという点で、ヨドバシカメラは同業他社と一線を画している。店舗については、1985年にPOSシステムの全店展開を実施し、1989年4月には、国内初とも言われるバーコードを使った「ポイントカード」システムを開発。今でこそ、あたりまえになったポイント還元の仕組みを業界に浸透させる先駆けとなった。1998年には、インターネット通販を開始し、2020年3月期の決算では、その売り上げが1,385億円に達し、全社売上高に占める割合は19.6%に至った。さらにコロナ禍の現在では、その割合が3割近くにも達している。
同社のビジネスにおける通販サイトの位置付けについて、代表取締役の藤沢和則氏は、「ここ5年間は、特に通販サイトに力を入れており、店舗と通販サイトの売上げを50%-50%、つまり両方を同等にご利用いただけるようにしたいと考えています。店舗で見てネットで買う、またネットで見て店舗で買うというように、双方を上手く活用するお客様の動向が顕著になってきており、ヨドバシ・ドット・コムの重要性も、これまで以上に高くなっています」と話す。
全社売上の半分を担う通販サイトを実現するための機能強化を考えた同社だが、そのポイントは、システムの拡張性とユーザーの利便性の向上と定義された。「最も重要なのは、激増するデータ量に対応できるスケーラビリティだと考えています。現在、商品数は約700万点を超えるという状況ですが、これがさらに10倍、100倍となっても確実に管理できるというアーキテクチャーを採用することが不可欠だと考えました」と藤沢氏は強調する。さらに、「これまでのシステムは、在庫をきちんと管理し、商品を確実にお客さんにお届けすることがキーとなっていましたが、将来のシステムでは、これに加え、お客様により適した商品を勧めできるといった機能が重要になってくると考えています」と話す。
こうして掲げられた目標の実現に向け、同社が打ち出したのは「オープンソースの活用」というアプローチだった。
オープンソースやアジャイル開発に精通したクリエーションラインを選択
実は、ヨドバシカメラでは、オープンソースのソフトウェアについて、既に10年以上前から使用を開始しており、その優位性については十分理解していた。そして5年ほど前に「適材適所で技術を使い分けるという時代がきた」(藤沢氏)との判断を下し、オープンソース導入のためのプロジェクトをスタート。これは、従来型のERPやデータベースシステムによって、確実な在庫管理や商品配送などを実現する一方、激増するデータ量に対応できる拡張性や、通販サイト上での顧客エクスペリエンスおよび商品提案機能の充実については、オープンソースの特性を活かすというシステム構成を意味する。同時に、オープンソースのメリットを最大限に活かすためのアジャイル開発についても、その実践が不可欠と考えた。
しかし、オープンソースを使用したシステムを迅速かつ確実に実現するためには、優れたパートナーの存在が不可欠だ。
「新しい技術を自ら学んでいくことも非常に重要ですが、それらの技術に精通している会社を探し出し、協業する形でシステム化を進めることが、より現実的であると考えました」(藤沢氏)。このため、藤沢氏自らが、インターネットで検索を行い、オープンソースの ”グラフDB” をキーワードに、パートナー企業を探すという行動を開始。自社の要件に合致した会社として、クリエーションラインをピックアップした。
当時の状況について、クリエーションライン 取締役兼CTOの荒井康宏は、「弊社で取り扱っているNeo4jと呼ばれるグラフデータベースについて、ヨドバシカメラ様からお問い合わせが入った際、藤沢社長自らのご連絡だったことに驚きました。そしてまた同時に、新たな技術採用に向けた強い意気込みを感じました」と振りかえる。
こうして、2020年5月、初の顔合わせを行い互いに理解を深める中、「正に私達のニーズに合致した会社だと思いました。仕事に対する姿勢や、こちら側の要求に対する適格な理解とご提案。全てを通じて、良い出会いだったと感じました」(藤沢氏)との感触を得たヨドバシカメラでは、クリエーションラインとの協業を決定し、協働プロジェクトをスタート。2020年11月中には、最初のサービスリリースが実施されるという、桁違いに迅速なスケジュールの第一歩が踏み出された。
システム概要:適材適所の技術切り分けとオープンソースを活用したさらなる拡張性の実現
「適材適所で技術を使い分ける」という考えのもと、従来のシステムと、オープンソースによるシステムが融合した新システムでは、ERPなどの既存システムに加え、オープンソースの分散メッセージキュー製品であるApache Kafka(以下、Kafka)、ドキュメント指向データベースのMongoDB、さらにインメモリデータベースであるRedisが採用されている。
従来のシステムと新システムの間は、Kafkaによって疎結合の形で連携されている。Kafkaのメッセージキューを介した非同期での連携により、データ量の急激な増加によるシステムの負荷上昇を抑制すると共に、クラスタ構成されたマシンを増やすことで、処理性能およびデータ保持容量を容易にスケールアウトできる。さらに、クラスタ構成によって、特定のマシンに障害が発生しても、データの損失や処理の停止が発生しない。ヨドバシ・ドット・コムで求められる将来的なデータ量の激増にも、柔軟かつ迅速に対応することが可能なアーキテクチャーとなっている。
お客様の購買履歴は、既存のERPシステムからKafka経由で、新システムのMongoDBに格納される。従来のRDBのような複雑なリレーションを行わず、ドキュメント構造のデータを高速処理できるMongoDBによって、購買履歴の参照や商品検索といった利用者の要求に対して、極めて素早いレスポンスを返すことが可能となる。これによって、ヨドバシ・ドット・コムのお客様に対して、より利便性の高いショッピング体験を提供することができる。
協業による効果:大量データへの対応、アジャイル開発の実践、そしてチームメンバーの育成にも貢献
取材日(2020年10月8日)時点では、実運用開始前という段階にある本プロジェクトだが、クリエーションラインとの協業により、既に多くの効果が発揮されている。
最初に藤沢氏は、大量データへの対応という点に触れ、「プロジェクト開始から3ヶ月で、当初考えていたPoCの目的を達成でき、膨大なデータを処理できるという点について十分な確証を得ることができました。これは協業による大きな効果と言えます」と話す。大量データのハンドリングやその素早い活用の実現は、ヨドバシ・ドット・コムを利用するお客様の利便性に直結する最重要課題と言える。それだけに、半年にも満たない両社の協業期間の中で、この目的達成に関する確証が得られたことは、特筆すべき協業の効果と言える。
また、今回のプロジェクトは、オープンソースの活用と共に、通常とは桁違いに迅速化されたシステム開発という面で、大きな意義を持つものとなっている。藤沢氏は、アジャイル開発に関連した協業による効果について、次のように話す。
「クリエーションラインには、高い技術力を持つ素晴らしいメンバーが揃っていますが、それだけでなく、アジャイル的なアプローチを常に心がけているように感じました。サービスを実現するためにどのようにすべきか、またその具体化に向けた道具となるシステムやツールを、どのように活用すれば良いのかといった両面について、実にバランスよく捉えた上で、迅速な対応を行っています。アジャイル開発では、チームが一体となって目的達成に向け進んで行きますが、クリエーションラインとの協業は、チームビルディングという面から考えても非常に勉強になると感じました」。
約5年間継続されてきたオープンソースの導入プロジェクトが、クリエーションラインの参画で急加速したという事実を踏まえ、藤沢氏はその存在を「プロジェクト活性化の “起爆剤”」と評価する。
さらに、プロジェクトに参画する約20名のメンバーの多くが、レガシーなシステム開発に携わった経験を持つため、今回のプロジェクトを通じて、新しい技術に挑戦できることを非常に前向きに捉えており、「社員のモチベーションや意識もだいぶ変わっていているように感じます」(藤沢氏)という効果も生まれている。
今後の展望: 2040年まで通用するシステムの実現に向け、技術面でのリード役として大きく期待
まだ半年にも満たない協業期間ではあるが、クリエーションラインとの協業によって多くの効果を得たヨドバシカメラでは、今後もその存在に大きな期待を抱いている。
今後の展望について藤沢氏は、「現在利用しているシステム基盤を構築したのが2000年頃であったため、約20年間にわたり、このアーキテクチャーを皆様にご利用頂いてきたことになります。今回刷新するシステムでは、2040年まで通用するアーキテクチャーを実現したいと考えています。クリエーションラインの皆様には、今後のプロジェクトにおいても、テクノロジー面でのリード役を担って頂きたいと考えています。最新技術に対する多くの知見や、それらのキャッチアップの時間を短縮するという面でも、大きく期待しています」と話す。
お客様はもちろんのこと、商品製造者、さらに共に働く人々などを含め、「周りに与える夢」を追求し続けるヨドバシカメラ。そのビジネスにおいて欠くことのできないIT基盤をより充実したものに進化させ、同時に迅速で確実なシステム開発が推進できる組織的な素地を定着させるため、クリエーションラインは不可欠な存在となっている。