お客様情報
■ 企業概要
グローバルな自動車部品メーカーとして広く認知されるデンソーは、「電動化」、「先進安全・自動運転」、「コネクティッド」、「FA(ファクトリー・オートメーション)・農業」という4つの重点技術分野を定め、世界を舞台にビジネスを展開している。
■ 本社所在地:
愛知県刈谷市昭和町1-1
■ 創業:
1949年12月16日
■ 資本金:
1,875億円
■ 従業員数:
連結 171,992人
単独 45,304人
■ 連結子会社数:
211社(日本70、北米26、欧州35、アジア74、その他6)※2019年3月31日現在取材当時の情報です
※写真右より、デンソー Factory IoT室 開発課長矢ヶ部氏、クリエーションライン CTO 荒井
- 導入ハイライト
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- パブリッククラウド環境をベースに自らの手で新システムを構築
- 130におよぶ工場データをコンテナ技術を活用した単一システム上で管理
- 内製化により開発のスピード化を図ると共に、社内人材育成にも貢献
世界中のカーメーカーから大きな信頼を得る自動車部品の一次サプライヤーとして、各種関連製品やシステムを提供する株式会社デンソー(以下、デンソー)。異業種からの参入と熾烈な技術競争により、100年に一度といわれる変革期にある自動車業界に軸足を置く同社では、この厳しさが増す時代を自らの「第2の創業期」と位置付け、環境変化の激しい中においても、社会に貢献し、世界の人々に共感される企業でありつづけるために、スピード感をもった「変革」を推し進めている。ビジネスを支える情報システムについても、これまで以上のスピード化が不可欠と考えた同社では、クリエーションラインとの協業の下、社内システム開発の内製化に踏み切り、コンテナ化技術の導入等により大きな成果をあげた。
導入の背景:第2の創業期に求められるスピード化に向け内製化へ舵を切る
「デンソーには “技術の手の内化”と呼ばれる文化があります。常に自分達で対応できる状態を作っておくというこの思想を社内システム開発において体現したのが、今回の取り組みだと思っています」社内システムの内製化へ大きく舵を切った今回の取り組みについて、デンソー 生産技術部 Factory IoT室 開発課長の矢ヶ部(やかべ)弾氏は、このように話す。
生産技術部 Factory Iot室
開発課長 矢ヶ部 弾 氏
自らの手で様々な対応を行うという精神は、同社で長く育まれてきたものだが、2017年4月、社内情報システムの刷新に際し、生産技術部では、外部のベンダーが提供するパッケージシステムを使用するというアプローチを取った。当時を回想し、矢ヶ部氏は、「パッケージを使用し、外部に依頼する形で開発を進めましたが、スタートから半年あまりが経過する中で、やはりスピードという点では自社開発する形態がベストであると痛感しました」と強調する。
同社が「第2の創業期」と位置付ける現在、この環境変化の激しい状況下では、スピード感をもった各種対応が不可欠であり、システム開発においてもそれは同様だった。このため生産技術部では、早くも2017年12月には、自社開発による新システム構築という体制をスタートし、パッケージによる開発と並行する形でパイロットプロジェクトを開始した。
クラウド、アジャイル開発、オープンソースを前提とした開発にあたりクリエーションラインと協業
内製化に向け、キーとなったのは、より迅速な開発や実装を実現するための仕組みだった。「スピード化という命題に対応するためには、パブリッククラウド環境やコンテナ技術が最適と考えました。パブリッククラウドでは、マネージドサービスを活用することで、従来2~3ヶ月はかかっていた環境の立ち上げが、わずか30分程度に短縮されます。また、システムの部品同士を疎結合にすることで、他への影響を排除しながら素早いリリースが可能となるコンテナ技術は、スピード化が最優先事項となる今回のプロジェクトでキーとなる技術と判断しました」(矢ヶ部氏)。
しかしコンテナなどオープンソースのソフトウェアに関わる技術や経験は、当時のデンソー社内には蓄積されていなかった。「内製化」を推進するためには、共にシステムを作り上げていくパートナーの存在が不可欠だった。協業相手を探す中、浮上してきたのが、資本関係もあり、また他のプロジェクトにおいて既に関係のあったクリエーションラインだった。矢ヶ部氏は「内製化に向けた社内プロジェクトは、数名のメンバーでスタートし、アーキテクチャーに関する青写真を書き、そこにオープンソフトウェアを当てはめていきました。そんな中、2018年の6月頃、社内のモビリティサービスチームから、クリエーションライン社を紹介されたのです」と話す。
クリエーションラインは、クラウド、OSS、アジャイル、DevOps、データ解析・機械学習等の先端技術について多くの経験および知識を有するエンジニア集団。今回のシステム開発でキーとなるコンテナ環境を提供するDocker、コンテナのオーケストレーションシステムであるKubernetesなどに長け、製品、ソリューションからトレーニングに至るまで幅広いサービスを展開している。「今回のシステム開発では、様々なオープンソースを使用しましたが、クリエーションライン社には、アジャイル開発コーチと開発チーム、Docker 、Kubernetes、Apache Kafkaなど、今回の開発でコアとなる技術に対するスペシャリストと言える方々が在籍しており、最高のパートナーだと感じました」(矢ヶ部氏)。
このような経緯でクリエーションラインと協業する形でのシステム開発を決定したデンソーでは、クリエーションラインのオフィスの一角にアジャイル開発用のプロジェクトルームを開設。オープンソースによる新システムの開発を開始した。2019年10月には無事カットオーバーを迎えた。
システム概要:コンテナ技術を駆使し、パブリッククラウド上の単一システムで130工場からのデータを管理
パブリッククラウドを基盤に、Docker 、Kubernetesといったコンテナ技術、さらに分散メッセージキューApache Kafkaなどを使用した新システムは、スピード化を意識したデンソーの要求に対応できる、迅速な開発からリリース、さらに柔軟な拡張性を備えたものとなった。
矢ヶ部氏の在籍部門であるFactory IoT室は、その名が示す通り工場におけるIoTの実現にフォーカスしており、今回のシステムでは、単一のプラットフォームで130におよぶ工場のデータを取り扱っている。工場内の設備に取り付けられたセンサーなどから得られた各種イベント情報(停止、稼動、障害等)を基に、画面上で稼動状況を可視化したり、製造時のトルク圧などの各種品質情報を提供したりすることができる。
ソフトウェア技術面では、コンテナ技術と分散メッセージキューの連携という点が他にはない、ユニークなものとなっている。パブリッククラウドの技術担当者は、パッケージ化されたクラスター管理環境の中でKafkaを実装する形は、いくつかの例があるが、Kubernetesクラスター環境上にKafkaを実装したケースは、ほとんど存在しないと話す。システム規模の大きさだけでなく、オープンソフトのコンビネーションという意味でも、本システムは大きな意義を持つものとなった。
導入効果:規模拡大に柔軟・迅速に対応できるシステムを実現。社内ノウハウ蓄積や人材育成にも貢献
カットオーバーから約5ヶ月が経過した同社の新システムだが、既に期待した効果が発揮されている。
「何といっても最大の導入効果は、パブリッククラウドとコンテナ技術を採用することで、柔軟で迅速なシステム拡張が可能となった点です。通常、複数の工場を持つ会社などの場合、1工場につき1つのシステムを割り当てますが、今回のシステムでは、130におよぶ工場を単一のシステムで管理しています。しかしシステムを立ち上げた当初から一気に1,000テラバイトにおよぶようなデータを対象にするわけではなく、状況に応じてデータの規模が拡大する形態となります。今回、パブリッククラウドとコンテナ技術を採用し、Kubernetesのオーケストレーション機能を活用することで、工場からデータがあがると、大きな手間をかけることなく自動的にシステムに取り込むことができ、さらにデータを含めたシステム規模が増大しても、柔軟かつ迅速にシステムを拡張し対応することができるようになりました。正に狙い通りの効果が発揮されたと思います」(矢ヶ部氏)。
もう1つの大きな導入効果は、アジャイル開発を含めた開発・技術ノウハウの社内への技術ノウハウなどの蓄積と人材育成という点だった。矢ヶ部氏は「2019年の東京モーターショーで、弊社社長の有馬が『2025年までにソフトウェアの開発要員を1万2000人へ拡大する』という内容を発表しました。仮に今回の開発がパッケージを使用したものだったら、ソフトウェア技術者は育ちませんが、今回内製化したことにより、外からソフトウェア技術者を採用し育成するという道が開けました」と話す。事実、生産技術部 Factory IoT室でソフトウェア技術者を採用するのは、今回が初めてとなるが、今後展開される開発要員育成の先駆けとなることは確実だ。社内でのノウハウ蓄積と人材育成という効果を目の当たりにした矢ヶ部氏は、期待を込めて次のように話す。「開発者が育成され、どんどん現場に送られ、ソフトウェアを駆使して生産活動に寄与すれば、これこそがデンソーにとっての強みとなると確信しています」。今回のシステム化は、デンソーが“技術の手の内化”という命題を実現するための起爆剤と位置付けることができるだろう。
さらに矢ヶ部氏は、クリエーションラインの貢献についても触れ、「アジャイル開発とオープンソースに関するスペシャリストの方々の存在は、今回のプロジェクトにとって非常に大きくかつ重要なものでした。もし彼らが参画していなければ、カットオーバーまで、さらに多くの時間が必要となったでしょう」と話す。
今後の展望: システムの横展開を図ると共に、業務生産性のさらなる向上を目指す
自らの手による新システム開発を成功裏に進めてきたデンソーだが、将来的な展開についても、既にその一歩を踏み出している。関連会社へのシステムの展開について、矢ヶ部氏は、「2020年度は、国内の製作所への導入を皮切りに、北米、欧州、そして、アジアの各拠点、さらに、国内のグループ企業への導入を行っていきます」と抱負を語る。また定量化した期待効果として、同社では、これまで取り組んできた生産システム全体に関する見直しや、現場の改善活動に加え、今回構築したクラウドベースのシステムによるスピード化や効率化によって、業務の生産性を2020年には、対2015年比で30%向上させるという中期構想も打ち出している。
厳しさが増すビジネス環境の中、第2の創業期と位置付けた今を、スピード感をもった「変革」によって切り開いていくデンソー。そんな同社のビジネスを支える新たな情報システムの先駆けとして、今回のプロジェクトは大きな意義を持つ。また同時に、迅速かつ高品質なシステム開発に寄与するクリエ―ションラインとの協業関係は、より密なものとなっていくだろう。